五月病から世界を救うためのコラム。読み終えるころには、五月病を愛しく思える。
五月病という概念
昔読んだ本にこんな話があった。
かつてエスキモーは氷の上に裸で寝ていた。そんなことをすればふつうは凍傷(低温によって皮膚に起こる傷害)になってしまうが、エスキモーたちは平気だった。
調査した学者は彼らにこう尋ねた。
「なぜ君たちは凍傷にならないんだい?」と。
ところがエスキモーは、そもそも凍傷というものを知らなかった。そこで学者が丁寧に説明した。
以降、エスキモーは凍傷にかかるようになってしまった。
というものである。
つまり、概念がなければ凍傷にはかからなかったのだ。
五月病にもおなじことが言えないだろうか。
五月病というのは、あくまでも精神的な症状の総称であり、実際に「五月病」という病名が存在しているわけではない。
だから病院へ行っても「あなたは五月病です」と診断されることはない。
だが、あるときから誰かがそれを「五月病」と呼び出したせいで、我々は概念を手にしてしまったのだ。
もう氷に裸で寝ていたあのころには戻れない。
まるで五月になったら気分が落ちこむかのよう
五月病というネーミングもマズいと思う。まるで、五月になったらもれなく全員の気分が沈むかのようだ。
五月病のせいで、五月にたいしてネガティブな感情を抱いている人も少なくないだろう。
「五月か。あぁ、気分が落ちこむ季節だ」という具合に。
だから五月病のネガティブなイメージを払拭する方法を考えてみた。
獲得してしまった概念を脳から消すのは不可能だから、いっそ五月病に新たな症状を追加してみてはどうだろう。
五月病を上書きしてもっとポジティブに捉えようじゃないか。
五月病の新しい症状
五月病にこんな症状を追加してはいかがだろう(どうせ正式な病名ではないのだから)。
GWの余韻に浸ってニヤニヤする
楽しかったゴールデンウィークを思い出してニヤニヤする。これも五月病と呼ぼう。
授業中にニヤニヤしているクラスメイトがいたら、「おいおい、五月病かよ」と突っこもう。
ボーナス一括払いで爆買いする
夏のボーナスを当てにして、クレジットカードのボーナス一括払いで散財すること。
とくに気分が大きくなりやすいGW中に頻発する。
これも五月病に追加しよう。
ボーナス一括払いで爆買いしている人にむかって、「五月病じゃんか」である。
誰よりも先に半袖デビューする
5月に半袖を着ている人も五月病でいいだろう。
ただの暑がりのような気もするが、まぁ五月病でいいだろう。
もし5月なのにタンクトップを着ている人がいたら、それはかなり重症の五月病だ。
入院とまではいわないが、入プールくらいは必要である。
もう水着買う
まだ5月なのにもう水着を買う。
これを五月病と呼ばずして何と呼ぶのか(答えはせっかち)。
雨の日が続くと「もう梅雨?」って思う
ただの雨を梅雨だと誤解してしまうのも、5月ならではだといえる。
連続する雨天にたいして過敏に反応するのは、他でもない、五月病のせいだ。
五月病をポジティブに
「悩みがなさそうでいいね」と言われまくる私の手にかかれば、五月病などわけもない。チョチョイのチョイである。
五月病に新しい症状を追加したことで、前よりもずいぶんハッピーな印象になったと思う。
ネガティブなイメージは影を潜め、代わりにちょっとおバカな雰囲気に生まれ変わった。こんな五月病なら、なってもいいような気がする。
五月病なんて存在しない
とにかく私は、「言葉のイメージに引っ張られるな。ないものをあると思うな」ということを主張したい。命令形なのはごめんなさい。
大人という言葉があるが、よく考えてみれば、大人なんてものは存在しないことがわかるだろう。
言葉があるからといって、"それ"があるとは限らないのだ。
だから、誰かが作った"五月病"なんて言葉に引っ張られちゃダメだ。
もし抗えないのなら、せめて五月病を楽しく賑やかにデコレーションしようじゃないか。
それが私たちにできる唯一の対抗策だ。大丈夫。五月病なんてない。
あるのはただ、散財と夏への期待、それだけだ。
五月病なんて吹き飛ばせ。