うつ病やうつ状態に苦しみ、回復したいと願う人は大勢います。
が、「うつになりたい人」がいるとはいったいどういうことでしょう?
うつは、自ら進んでなるような病ではないはず。
それでも著者は「ウツになりたい人」の存在を指摘しています。
この記事では、植木理恵著『ウツになりたいという病』の要約と感想をご紹介します。
ぜひ参考にしてみてください。
『ウツになりたいという病』の要約と感想
まずは本書の要約から。
ウツもどきが増えている。
もどきとはいえ本人は実際に苦しんでおり、仮病ではない。
表面上はウツに酷似しているが、本質的に違いがある。それがウツもどき。
著者はウツもどきを3つに分類。
ウツになりたい病、アイデンティティの不安定さからくるウツ的症状、新型ウツである。
これらについて考察しながら、「ウツ」という概念が安易に流行していく現代の風潮に警鐘を鳴らす。
以上がおもな内容です。
うつになる人の心理。うつを蔓延させている現代社会の構造。
こうした「うつの根底」について学びたい方に本書はおすすめです。
ウツもどきとは何か?
現在、うつ病を診断する際に使われているのが、アメリカ精神医学会が作成したDSM-IV-TRという基準です。
DSM-IV-TRによると、うつ病とは、
- 「空虚で毎日悲しい」という抑うつ気分
- 集中力・思考力・決断力が止まる認知障害
これらの症状が2週間以上つづく病気であると定義されています。
世界的診断基準となっているDSM-IV-TRに、患者の症状が当てはまればうつ病。
該当しない場合には、うつ状態など。
このように、厳密にはうつ病ではないけれど、うつ病に症状が酷似している症状のことを、著者はウツもどきと呼びます。
出勤すると抑うつ気分になるが休日は元気、で知られる「新型うつ」なる症状は、うつ病ではない。ウツもどき。
ウツもどきは、
- ウツになりたい病
- アイデンティティの不安定さからくるウツ的症状
- 新型ウツ
の3つに分類できるのだとか。
本書ではそれぞれについて説明がなされていました。
この記事では、タイトルになっている「ウツになりたい病」についてご紹介します。
ウツになりたい病
著者が「ウツになりたい病」と呼んでいるのは、ウツを利用したい心理のことです。
たとえば、メランコリニックな人は知的であるという自己愛的な心理。
あるいは、ウツという記号を不安定な心の一時避難所として利用しようという無意識の働き。
こうした心理によって、自らをウツ状態に陥れている、というわけです。
アドラーが同様の指摘をしています。
「患者がうつをどのように利用しているか見抜くのが大事だ」と、アドラーは医師に向けてアドバイスしていました。
ウツもどきのなかには、ウツという症状を利用して、自分を守ろうとする(ウツだから仕事で成果が出せないのは仕方ないなど)心理が隠れている可能性がある、ということ。
努力しても報われないなど、無力感を味わったとき、人はウツ状態になることがあるといいます。
競争社会がウツを生む
現代社会は無力感を味わう機会が多いのだと、著者は指摘しています。
20歳ごろまでは勉強をテーマとした競争。
社会人になったら出世やお金儲け、成功への競争。
このように、死ぬまで競争が止むことのない社会で生きているのが私たち現代人です。
競争に敗れた大勢が、挫折感や無力感を味わうことになる。
勝利した一握りの人間も、富やステータスを失うことへの不安やストレスに苛まれる。
著者がウツ状態で相談を受けている人は、年収300万円以下と高所得者に大きく分かれるのだそう。
こうした現状を指摘したうえで著者は、「経済的な勝ち負け以外の価値観を持つこと」を推奨していました。
多くが特定の宗教を持たない日本人にとって、世間が宗教そのものになっているのだとか。
世間に蔓延する「〜すべき」という単一の価値観に日本人は染まり、競い、消耗しているのかもしれません。
まとめ
本書のなかで著者は、ウツやウツを増加させている社会構造を指摘し、私たち一人ひとりがどのように生きていくべきかを示しています。
精神的に疲れている人、ウツっぽい気がする人は、競争社会に疲弊しているのかもしれません。
そんな人こそ本書を読み、生き方について考えてみるのが良さそうです。
ポジティブシンキングがウツ症状を加速させる、といった指摘もありました。
これまでの思い込みを捨て、自由に生きるきっかけに本書がなるかもしれません。
現代社会に生きづらさを感じているすべての人におすすめの一冊です。
以上、植木理恵著『ウツになりたいという病』の要約と感想でした。
結論。ウツの因子を多く孕んでいる現代社会とは距離を置くべし。勝っても負けても精神を病むリスクあり。多様な人生観、幸福の尺度を見つけよう。
競争社会から脱落して「ウツ」に行き着かないためにも。