第153回芥川賞受賞作。
この記事では羽田圭介著『スクラップ・アンド・ビルド』を読んだ感想をご紹介します。
ぜひ参考にしてみてください。
なお、ネタバレはいっさいありません。
『スクラップ・アンド・ビルド』の感想
本作は、介護を必要とし「早う死んだらよか」が口グセの祖父と、20代の孫との関わりを描いた物語です。
祖父の願いを叶えてやるために孫は祖父にたいして過剰な介護をし、すこしずつ生命力を削ろうと試みるのですが……。
いかにも羽田圭介らしいブラックユーモア漂う作品です。
高齢者が読んだら気分を悪くするような表現もありますので、高齢の方が積極的に読むことはおすすめしません。
祖父を弱らせる方法
祖父の「早う死んだらよか」という望みを叶えるべく、主人公は過剰な介護をして祖父の生命力を奪おうとします。
身の回りの片付けをしてやる、邪魔なものをどけて廊下を歩きやすくする、食器を片付けてやる……など。
なるべく本人の負担を減らし、筋力を失わせ、寝たきりにし、生命力を低下させ、命を落とすよう仕向けるんですね。
「殺してやる」という殺意があるわけではなく、あくまでも「本人の意思を叶えてやりたい」という善意に突き動かされているので、主人公はけっして祖父を直接殺そうとはしません。
むしろ祖父を大事に想っています。
そのため、祖父がなるべく苦しまずに亡くなることを最優先させています。
カーテンを開けて……
「ガンはさほど苦しむことなく死にいたる」 という持論を持つ主人公は、祖父の部屋のカーテンを開け、「皮膚ガンになるよう」促したりもします。
どこまで本気なのか、あるいはジョークか。
羽田圭介はほんとうに面白い作家です。
部屋のカーテンを開けたくらいで皮膚ガンを発症するとは考えにくいのですが、主人公は大まじめにそれを行なっているんですね。
たしかに紫外線は皮膚ガンの要因になるとされていますが……。
廊下の段ボールを片付けて歩きやすいようにし、余計な体力をつけさせないようにしたり。
効果のほどはさておき、そうした主人公の姿はなんだか笑えてしまいます。
筋トレをして思うこと
主人公は筋トレをして体を鍛えています。それもかなりハードに。
筋力が衰えて弱りゆく祖父と、筋肉を肥大させてどんどん生命力を増してゆく主人公。
その対比がなんとも印象的でした。
主人公が筋トレをしながら考えていることや、街中でガタイの良いスポーツ部員を見かけたときに毒づくセリフなど、ユニークな思考にはおかしみがあります。
著者である羽田圭介自身も日常的に筋トレを行なっているそうなので(クリアな頭脳を手に入れて執筆に活かすため)、ふだん本人もそんなことを考えているのだろうな、などとつい想像してしまいます。
若者こそ読むべき作品
『スクラップ・アンド・ビルド』は若者こそ読むべき作品です。
若いことや元気に動けることがどれだけ価値のあることか、どれだけ素晴らしいことなのかを実感できます。
ふつうに歩けて、ふつうに食事ができて、やりたいことがあれもこれも見つかるのは、けっしてふつうのことではないので。
まとめ
羽田圭介著『スクラップ・アンド・ビルド』 についてご紹介してきました。
著者のほかの作品にくらべて、本作には重厚な雰囲気が漂っています。
メッセージ性が強く、気づかされること、考えさせられることが多々ありました。
第153回芥川賞受賞作品
又吉直樹の『火花』とどうじに第153回芥川賞を受賞した本作は、受賞時に発売されていなかった不運もあり、『火花』に世間の注目をさらわれてしまったといえます。
世間には、『スクラップ・アンド・ビルド』ってなに?という人も多いでしょう。
私は『火花』よりも『スクラップ・アンド・ビルド』のほうが好きですね。
楽しめました。
まぁ、人それぞれの好みによりますが。
以上、羽田圭介著『スクラップ・アンド・ビルド』を読んだ感想でした。
はたして祖父の運命は……。