あなたは「自分で自分を騙している」だなんて信じられますか?
本書を読めば、私たちがどれだけ自分自身にウソをついているのかがよくわかります。
なぜ自分を騙す必要があるのか、ということも。
この記事では、ケヴィン・シムラー、ロビン・ハンソン著『人が自分をだます理由 自己欺瞞の進化心理学』を読んだ感想をご紹介します。
ぜひ参考にしてみてください。
『人が自分をだます理由 自己欺瞞の進化心理学』の感想
「人は競争に勝つために他人だけでなく自分をも欺く」というのが本書のメッセージです。
私が理解した内容をお伝えすると、まず、人間の行動はすべて私欲にもとづいています。
私欲というのはおもに見栄や虚栄心のこと。
募金をするのも、高級なバッグを買うのも、カップルが手を繋ぐのも、すべて「私欲」と切り離せません。
ただ、あまり利己的に振る舞うと他者に嫌われてしまうリスクがあります。
これでは社会で生きる立場としてマズい。
だから利己心を隠して他者を惑わすために、脳はまず自分自身を騙す。
こういうわけです。
「敵を欺くにはまず味方から」ということわざにソックリです。
詳細は本書に(とても丁寧に)載っていますので、興味のある方は実際に読んでみることをおすすめします。
自分を騙すリスク
他者に利己心がバレないよう、脳はまず自分を騙します。
そのほうが他者をうまく欺けるからです(自分では真実だと思い込んでいるので辻褄を合わせる必要がない)。
ところが著者は、自分を騙すことにもリスクがあるといいます。
それは、自滅を招く可能性があるということ。
だいぶわかりにくいかと思いますので、いったん具体的な例をご紹介します。
自滅を招く可能性がある
- 健康診断の結果を実際よりも「良かった」と誤って記憶する
- 喫煙者があえてタバコの有害な影響に耳を傾けないようにする
このように、人は事実を歪めたり、無視したりすることがあります。
が、脳に騙された私たちは重大な問題に気づけず、最終的に自滅を招いてしまうかもしれないのです。
高コレステロールで心臓病に、喫煙によって肺ガンになってしまうなど。
著者はこうした状況を「まるで暖房の温度調節器にドライヤーを当てているようなもの」だと喩えています。
温度計の数字は上がるが、部屋が暖まることはなく、カラダの震えも止まらないと。
めちゃくちゃ秀逸な喩えです。
だからこそ私たちは、「自分で自分を騙している」ことに自覚的になるべきなんですね。
致命傷を負わないためにも。
「良い理由」と「本当の理由」がある
J.P.モルガンは、「人が何かをするときには良い理由と本当の理由の二つがある」といいました。
本書はまさにそのことを表しています。
たとえば高級ブランド品について考えてみます。
高級ブランドのバッグを買う良い理由は、美しさに惚れたから。
本当の理由は、富を見せびらかすため。
では、カップルがデート中に手を繋ぐのはどうでしょう。
良い理由は、パートナーのことを愛しているから。
本当の理由は、第三者(潜在的なライバル)へ向けた「自分たちは結ばれている」というシグナル。
最後は募金についてです。
良い理由は、困っている人々を助けたいから。
本当の理由は、慈悲深いところを人に見られたいから。
「そんなはずない」と反発したくなる内容もありますよね(私は受け入れられませんでした)。
しかし本書は実験結果やデータを用いることで、客観的にこれらの自己欺瞞を炙り出しています。
つまりこれが現実なのだと受け入れざるを得ないわけです。
人間ってなかなかに醜いですよね。
「いいや違う。募金をするのは困っている人を救いたいという純粋な気持ちによるものだ」と感じてしまうのは、まさに脳が自分をだましているせいなのかも……。
まとめ
本書の特徴はまず、分厚いこと。枕として使えるほどの厚さがあります。
ただめちゃくちゃ面白いので、最初から最後までいっさい退屈しません。
芸術や宗教、医療、教育、ショッピング、寄付など、あらゆるテーマごとに本書は我々の自己欺瞞を突きつけてきます。
自分自身が持つ「醜い魂胆」を知るのは興味深いですし、こうした本当の理由を知ったうえで他人を観察するのは、もっとずっとエキサイティングです。
行動に隠された本当の理由(自己欺瞞によりおそらくは本人も自覚していない)を考えながら他人を眺めるのは、なかなか面白いものですよ。
「ぜんぶお見通しだよ」ってなもんです。まぁ、だいぶ悪趣味ですが。
以上、ケヴィン・シムラー、ロビン・ハンソン著『人が自分をだます理由 自己欺瞞の進化心理学』を読んだ感想でした。
本書は万人におすすめできるものではありませんが、記事を最後まで読んでくださったあなたならきっと気に入るはず。