20歳を過ぎ、大人になってから吃音の症状が出はじめる人がいます。
たとえば、私です。
社会人として働いていた24歳のときに、言葉につかえる「難発性吃音症」を自覚するようになりました。
大人になってからアンパンマンに熱狂する人はいませんが、 大人になってから吃音を発症する人は、少なからずいます。
「だれにも理解されない人類史上初の悩み」ではないので、絶望することはありません。
この記事では、
- 24歳で吃音を自覚した経験
- 吃音症は治せるのか?
など、「大人になってから吃音になる」ことについてわかりやすくお伝えします。
数少ない吃音症のレビューとして、ぜひ参考にしてみてください。
もちろん、吃音のレビューは、星1個です。
大人になって吃音になる
大人になってから吃音を発症すると、まるで5歳児に戻ったかのような気分になります。
言いたいことが、うまく言えないからです。
吃音症を自覚するようになったのは、24歳のときでした。
アルバイトも含めると5年近く塾講師として働いていた私にとって、おしゃべりは、生活そのものです。
朝だろうと夜だろうとペチャクチャ喋りすぎるせいで、家では「しゃべくりバチ」の異名をとっていました。
「うるさい」と親に叱られるのは日常茶飯事でした。
そんな私が大人になってから吃音症を自覚した衝撃は、たとえるなら、猫アレルギーを発症した猫ブリーダーのそれに近いのかもしれません。
あるいは、聴力を失った作曲家ベートーベンも、たぶんこんな気分だったろうと想像します。
端的にいえば、あぁ終わった、ってなもんです。
社会人生活をスタートして2年目、100メートル走ならちょうど1歩目で盛大にずっこけて、ヒザと自信を負傷しました。
吃音外来は子どもだらけ
吃音症を発症するのは、たいてい子どもです。
吃音外来を受診した経験からいっても、これは間違いありません。
私の人生の半分しか生きていないような子どもたち(だいたい12歳前後)が、待合室を占めていたからです。
病院にいたのは子どもと親のペアがほとんどで、大人ひとりで受診した私は、ソファから30cmくらい浮いていました。
私が発症したのは「難発性吃音症」というやつで、たとえばタルタルソースといいたいとき、一言目の「た」がいえなくなります(ときどき)。
症状が出ると、喉を塞がれたような感覚に陥り、一言も発することができません。
水槽で口をパクパクさせている金魚、まさにあんなイメージです。
そんな吃音症について、本人が「自分には吃音がある」と認識していないケースも、じつは少なくないといいます。
- 自分は短足だ
- 自分は顔がデカい
これらの特徴に気づかないまま大人になる人がいるようなものです。
つまり、
- 吃音を「発症」する時期
- 吃音を「認識」する時期
両者は必ずしもおなじではない、ということです。
たとえば私だったら、吃音を自覚したのは24歳でも、ほんとうは7歳で発症していたのかもしれません。
だとすると、17年間ずっと吃音に気づかなかったことになります。
いっそ鈍感なまま過ごせたら良かったものの、どういうわけか24歳のときに「吃音かも」と勘づいてしまいました。
このタイムラグが、 大人になってから吃音になった、との誤解を生じさせる原因です。
失敗体験がきっかけで気づく
失敗体験は、自らの吃音に気づくきっかけになり得ます。
たとえば、電話をしていて言葉につかえてしまった、などです。
大人になってから吃音になったのではなく、大人になってからの失敗で吃音に気づいた、ということです。
意識していなかっただけで、過去にもおなじ言葉を何度も繰りかえしたり、つかえてしまって別の言葉に置き換えたりしていたのかもしれません。
生活に支障が出ない軽めの吃音であれば、自分だけでなく、親や友人も気にしていなかったのでしょう。
そもそも、たいていの人は吃音という概念を知りませんし、「吃音」を読めもしません。
英語のリスニングテストで知らない英単語を聞き取れないのと同様、知らない症状については、気づきようがないともいえます。
- ただの個性
- 焦っている
- せっかちで早口
私たちの吃音は、この程度の認識で片付けられていたのかもしれません。
大人の吃音はストレスが原因?
大人になってから吃音に「気づく」人もいれば、吃音に「なる」人もいます。
いずれにしても、子どもも含め吃音の原因はまだわかっていません。
原因が不明なので、大人になってから現れる吃音が「ストレスのせい」なのかどうかもわかりません。
したがって、「仕事のストレスが原因で吃音になってしまった」といって上司を恨むのは、早計だといえるでしょう。
メカニズムが解明されていないため、吃音には治療法がありません。
ちなみに吃音外来で発声のトレーニングに付き合ってくれた言語聴覚士は、私の3倍くらい、吃音の症状が出ていました(だから通うのをやめた)。
吃音の専門クリニックを受診しても、
- 吃音を治す薬
- 吃音を治す注射
- 吃音を治すオペ
- 吃音を治すマッサージ
といった治療は受けられません。
ガッカリするだけなので、期待は厳禁です。
病院へ行くとおそらく、月に数回、発声トレーニング(訓練)に通うことになるでしょう。
先生から勧められます。
ネット通販Amazonでは、専門病院とおなじトレーニングが自宅でできる、こんな本が売っています。
ですので、吃音外来や吃音クリニックが近所になくても心配ありません(たいてい無い)。
あるいは、吃音の恐怖にドキドキしながら電話をかけ、診察の予約をとる必要もありません。
ムリせず、まずは「できそうなこと」からスタートしてみてはいかがでしょうか。
上のテキストは、吃音を治すのではなく、「楽な話し方を身につける」ことを目的に書かれています。
くわえて、吃音に関する正しい知識も身につけられるので、読んで損はないはずです。
以上、大人になってから吃音になることについてでした。
【結論】遅れて自覚したか、ほんとうに発症したか。そういうことはある。どっちであれ現状は変わらないので、まずはできることをしよう。私は上の本を読んだし、あと、会社も辞めた。「しゃべらない」仕事はいくらでもあるから。
【参考文献】
安田菜穂、吉澤健太郎『自分で試す吃音の発声・発音練習帳』学苑社、2018年
吃音の症状について、当サイトにはこんな記事もあります。
退職や転職に関して、当サイトにはこんな記事があります。
吃音のせいで仕事に支障が出て、精神的ストレスが溜まるなら、会社を去るのも手です。
多額のボーナスを失いたくない場合には、上司に部署移動をお願いしてみてください。
勤務先はそのままに、職種だけ変えてもらえるかもしれません(営業から製造とか)。