サイコパスとシリアルキラー、この両者はどう違うのでしょうか。
比較するために、まずはそれぞれの言葉の定義を確認していきましょう。
サイコパスとは、精神病質者を指します。
医学的には、サイコパスを含む広い概念である「反社会性パーソナリティ障害」に該当します。
したがって、サイコパスという言葉自体に"殺人"や"暴力"といった意味はありません。
サイコパスの具体的な特徴については、後ほど詳しくご説明します。
それにたいして、シリアルキラーは「連続殺人犯」を意味します。
- serial:連続の
- killer:殺人者
これで連続殺人犯です。
朝食でミルクをかけて食べるシリアル(cereal)とは関係ありません。
たとえば、シリアルキラーとしては、1888年のロンドンを恐怖の底に叩き落とした「切り裂きジャック」が有名です。
では、次々と人を殺すシリアルキラーは、精神が普通ではない、すなわちサイコパスなのでしょうか。
連続殺人犯のほとんどがサイコパスだと考えて良いのでしょうか。
この記事では、
- サイコパスの特徴
- シリアルキラーはサイコパスか?
など、「サイコパスとシリアルキラーの違い」をわかりやすく解説します。
知的好奇心を満たすため、ぜひ参考にしてみてください。
サイコパスとシリアルキラーの違い
サイコパスとシリアルキラーはイコールではありません。
両者はまったくの別物です。
シリアルキラー(serial killer)とは連続殺人者を意味する言葉で、
- 切り裂きジャック
- テッド・バンディ
- ハロルド・シップマン医師
- コリン・ピッチフォーク
などの殺人犯が有名です。
たとえば切り裂きジャックは、
- 酒場近くの裏通りで売春婦を襲う
- 喉を切り裂き、腹を何度も刺す
- 被害者の内臓を抜き取る
- "戦利品"として臓器を持ち帰る
- 次の犠牲者を探す
1888年のロンドンでこうした犯行を繰りかえし、3ヶ月の間に計6人の女性を殺害しました。
ちなみに切り裂きジャックは警察に捕まらず、事件は未解決のまま迷宮入りとなっています。
ところで、何人の人々を殺したら「シリアルキラー」になるのでしょうか。
2人以上の殺害でシリアルキラーの"要件"を満たすのでしょうか。
厳密な定義はありませんが、一般に、「少しの冷却期間を置いて別々の場所で3件以上の殺人を行う人物」のことをシリアルキラーと呼びます。
なお、連続殺人事件は「シリアルマーダー」といいます(murder:殺人)。
もちろん、われわれ"善良な市民"にとって、殺人など考えもつかないことです。
1人の殺害でもあり得ないわけで、3人、5人、それ以上の命を奪うことなど考えられません。
私たちがもし誰かに腹を立てたとしても、罵声を浴びせるか、完全無視するか、せいぜい肩のあたりにパンチを食らわせる程度でしょう。
では、淡々と殺人を重ねるシリアルキラーは、冷淡なイメージのある「サイコパス」でもあるのでしょうか。
続いてサイコパスの定義を見ていきましょう。
サイコパスの定義とは
サイコパスの医学的な診断名は「反社会性パーソナリティ障害」です。
診断基準としては『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』の記述が広く用いられています。
- 被験者が15歳以上であること
- 7つの特性のうち3つ以上に該当すること
この基準を満たす場合、疾病の可能性が考えられます。
7つの診断基準は次のとおりです。
- 逮捕に値する行動をとる
- 自己利益のために人を騙す
- 衝動的で計画性がない
- 喧嘩や暴力を伴う易刺激性
- 自分や他人の安全を考えられない
- 責任感がない
- 良心の呵責がない
4番目に出てくる「易刺激性」とは、キレやすい状態を指す言葉です。
つまり、すぐカッとなって喧嘩したり暴力したりするかどうか、と解釈してください。
ちなみにサイコパスは、先天性(生まれつき)の特性である可能性が高いと考えられます。
普通だった人が、30歳を過ぎていきなりサイコパスになったりはしない、ということです。
サイコパスは衝動的で、他者の感情を共有できないとされていますが、だからといってサイコパスが全員「犯罪者」になるわけではありません。
- 犯罪者になりやすいサイコパス
- 犯罪者になりにくいサイコパス
この2グループに分けることができ、後者は、経営者や弁護士、外科医など社会的地位が高い人も少なくないとされています。
なぜかというと、ストレスを感じない、プレッシャーに強い、大胆な判断力を持つ、といったサイコパスの特徴が仕事に役立つからです。
そんなサイコパスの割合は、日本では100人中1〜2人程度だと考えられています(ほとんどは問題を起こさない向社会性サイコパス)。
サイコパスには、他者の気持ちを理解できない傾向があります。
だから自分以外の人間に冷淡ですし、そもそも他人に興味がありません。
感情や共感に乏しいため、サイコパスは人を人とも思わないような行動を平気で取ったりもします。
モノを扱うように他の人間を扱う、ということです。
それからサイコパスはいつでも退屈を感じており、スリルや刺激を求めています。
この際、リスクや危険については考えません。
だから時として、サイコパスはトンデモナイ事件を起こしたりもします。
たとえば、218人の患者を殺害したハロルド・シップマン医師は、サイコパスだったとされています。
彼は人殺しを娯楽のように楽しんでいました。
218人の患者を殺害した医師
すでにお伝えしたとおり、サイコパスが漏れなく犯罪を犯すわけではありません。
医師や経営者として社会貢献しているサイコパスも存在します。
したがって、オタマジャクシがカエルになるように、サイコパスがいずれシリアルキラーになると決まっているわけではありません。
がしかし、シリアルキラーのほとんどはサイコパスだと考えられています。
たとえるなら、ゴリラの血液型はB型だが、B型の人間はゴリラではない、みたいな関係です。
B型が人間とゴリラを包括している、サイコパスが市民とシリアルキラーを包括している(いずれも存在する)、そんなイメージです。
たとえば、史上最悪のシリアルキラーであり、サイコパスでもあった人物として、ハロルド・シップマン医師が挙げられます。
シップマン医師は、少なくとも218人の患者を殺害しました。
彼の犯行手順は次のとおりです。
- 患者のもとへ往診に行く
- 致死量の鎮痛麻酔薬を注射
- 架空の死因をでっちあげる
- 遺族に火葬を勧める
彼はなぜ患者を次々と殺害したのでしょうか。
何か恨みがあったのか、それとも金銭目的だったのか……いえ、そうではありません。
事件を担当した検視官曰く「彼はただ人の生死を操っている感覚を楽しんでいただけだ」といいます。
私たちにしてみれば、マトモな感覚ではありません。
スポーツカーを意のままに操るのは楽しくても、人の生死を操るのは楽しくないでしょう。
ただただ良心が痛むだけです。
サイコパスだった(おまけにナルシストでもあった)シップマン医師……良心が欠如しているからこそ成しえた所業です。
その他にもサイコパスのシリアルキラーとして、アメリカのジョン・エドワード・ロビンソンが挙げられます。
- 偽名を使い架空の求人広告を出す
- SM掲示板で犠牲者の女性を募る
彼はこれらの方法を使い、自身に近づいてきた人物を殺害しました。
8件の殺人で有罪となったロビンソンには、死刑判決が下されています。
まとめ
サイコパスの特徴として、
- 他者への共感がない
- 他人に無関心で冷淡
- 良心の呵責がない
- 罪の意識がない
などが挙げられます。
だからこそ、一部のサイコパスはシリアルキラーと化し、淡々と殺人を繰りかえすことができるのでしょう。
罪の意識に苛まれて不眠症になったり、警察に出頭したりせずに、です。
ちなみに、サイコパスが犯罪を犯す動機の多くは「スリルの追求」だとされています。
私たちがジェエットコースターやホラー映画、シューティングゲームを楽しむような感覚で、サイコパスは犯罪に手を染めます。
それから特定の誰かを標的とするのではなく、広い範囲の人間を標的として選び、不特定多数を襲う常習犯(すなわちシリアルキラー)になる可能性が高いのもサイコパスの特徴です。
殺人をつぎの2種類に分けたとき、
- 衝動的で無計画な殺人
- 快楽や金銭のための殺人
サイコパスでない殺人犯は、後者の割合が48.4%だったのにたいし、サイコパスは「快楽や金銭目的の殺人」が93.3に達した、という調査もあります。
つまりサイコパスの殺人犯のほとんどは、カッとなって理性を失ったわけではなく、落ち着いて冷静に殺人を犯している、ということです。
くわえてサイコパスは人を殺害する際、過剰な暴力を振るう傾向があることもわかっています。
たとえば、一度ではなく何度も被害者をメッタ刺しにしたり、拷問にかけたり、身体を切断したり……サイコパスはこうしたサディスティックな行為を好み、遺体がボロボロになるまで痛めつけます。
というのも、他人が苦しむ様子を観察することに悦びを覚えるからです。
だから信じられないほど残虐な犯行に及びます。
最後に、
- サイコパス:精神病質者
- シリアルキラー:連続殺人者
両者は異なる概念ですが、けっして無関係ではなく、それぞれ深く関わり合っているといえるでしょう。
シリアルキラーの多くはサイコパスだと考えて良いのかもしれません。
高級外車ベントレーに乗っている人間はたいていお金持ち、みたいなことです。
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おなじ人間がやったとは思えない驚愕の大犯罪に興味があるなら、本書で知的好奇心を満たせること請け合いです。
ご紹介した切り裂きジャックやシップマン医師など、連続殺人者の事件も詳しく載っています。
以上、サイコパスとシリアルキラーの違いでした。
【結論】サイコパスは精神病質者。医学的には反社会性パーソナリティ障害に該当する。他者への共感や思いやり、罪の意識に欠けるのが特徴。シリアルキラーは連続殺人者。淡々と殺人を繰りかえせる精神はマトモではない。ゆえにシリアルキラーの多くはサイコパスだと考えられる。たとえるなら、フェラーリに乗っている人の多くは金持ちだと考えられる、みたいなこと。
【参考文献】
中野信子『サイコパス』文藝春秋、2016年
クリストファー・ベリー=ディー『サイコパスの言葉』エクスナレッジ、2018年
名越康文『まんがでわかる 隣のサイコパス』カンゼン、2018年
『犯罪学大図鑑』三省堂、2019年
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